ジャッカルの日

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【特集】思い出の忘れられないパチソンの元曲を20年越しで発見できた件

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 特にドラマチックな出来事は起きませんが、「大人になって懐かしのアレを探そうとしたら意外に手間取った」という思い出話です。(初出/『二級河川15 古本仁義』)

 

1.パチソンのよさみ

 パチソンとは「本来とは違う歌手が歌っているパチモン」のことで、その中でもアニメ・特撮ソングを指す事が多い。カバーや声優が歌うバージョン違いなどとは異なり、名前もわからないような歌手がほとんどだし、演奏も微妙にヘタだったりする。なぜこういうものが発売されるのかはよくわからないが、たぶん歌手の契約だかなんかの問題があるのだろう。たいていは複数のアニメ・特撮作品がまとめて収録されたオムニバス盤として出ている。
 パチソンは現在でも存在しているようだが、全盛期はカセットテープが主流の70~80年代頃と思われる。パチソンデータベースで確認したわけではないので想像に過ぎないが(というかそんなデータベースは無い)。
 幼少期のおれもパチソンテープはよく聴いていた。自分の知らない番組の主題歌も収録されているのは単純にうれしかったし、アレンジなのか単にヘタなのか判別しがたいパチソンクオリティも、聴き続けているうちに「テレビのとはちょっと違うけど、まあこれはこれで」と思えてくるのだ。時には「歌詞が耳コピらしく間違いだらけ」とか、「ノッてきた歌手がコブシを利かせすぎて、アニソンなのに演歌にしか聞こえない」とか「ヘタクソという概念すら超えた何か」とか、パチモノでは片づけられない級のヤバいものも存在してたらしいが。

 

2.『ゆき』を求めて

 おれが自分のCDラジカセを手に入れたのは中学生の時だった。当時はCDもカセットもほとんど持っていなかったので、レンタルを利用するかラジオを録音する以外となると、家にある音源を聴くしかなかった。両親の音楽コレクションはほとんどがレコードだったので、自分が園児の頃に買ってもらった「アニメまんが大行進」みたいな3本ばかりのパチソンカセットをアホみたいなヘビーローテーションでかけていた。
 当時聴いていたパチソンカセットの収録作を思い出してみると、大人気の『Dr.スランプ』はOP・EDはもちろん、挿入歌の「気分まかせの大発明」「いちばん星み~つけた」等も収録されている優遇ぶりで、他は『めちゃっこドタゴン』『森の陽気な小人たち』等の79年生まれのおれには1ミリも記憶が無いものや、テレビのスペシャル番組で1度放映されたきりらしい『マリンスノーの伝説』のED「海に還る」など、マイナー作も含めまあとにかく何でも詰め込まれていた。
 そうしたパチソン群を何度も聴き返し、巻き戻しているとテープが突然切れたり、リールに引っかかってゴチャゴチャになって伸びてしまったりする。接着剤で強引にくっつけて対処していたが、そんな事を繰り返しているうちにすべてのパチソンテープが修復不可能になってしまった。
 パチソンテープに収録されていた曲の中でおれがお気に入りだったのは、『シリウスの伝説』の主題歌「時よゆるやかに」や、『世界名作ものがたり』のOP「メリーゴーランド・ドリーム」など。前者はすぎやまこういち作曲、後者は山本正之の作詞作曲によるもので、あまり知られていない気もするが、今聴き返してもいい歌だと思う。これらの曲に関する詳細は後年、記憶を頼りに調べたもので、聴いていた当時は曲名すらわからなかったし、『シリウスの伝説』がどんなアニメかも知らなかった。


 2000年ごろ。暇ぶっこいていた大学生時代、友人らのツテでアニソンに触れる機会も増えた。インターネットも普及し始めたころで、カセットのレーベルに書かれていた作品タイトルを頼りに歌詞サイトなどを調べてCDを取り寄せ「あー懐かしい、原曲はこうなってたのか~。今聴いても名曲だしパチソン版も悪くなかったな~」などと思い出に浸っていたのだが、当時いちばん好きだった『ゆき』という作品の曲については、まるで手がかりがなかった。
 静謐なイントロ、のびやかなメロディと共に歌い上げられる、春の訪れを迎える喜び。中学生当時のおれは、イメージ豊かなその歌詞世界にすっかりやられてしまった。今のおれが好んで聴いているようなアニメ・特撮ソングと比べると雰囲気はまったく異なる曲だったが、本家とは異なるパチソンですら、エンドレス再生で聴き惚れてしまうほどだった。
 そんな思い出の名曲なのだが、なにせ手がかりが『ゆき』という作品名だけ。あまりにも一般的な単語過ぎて、2000年当時のおれの検索スキルではどんなアニメかという情報にすらたどり着けなかった。
 うろ覚えの歌詞で検索してもヒットせず、すっかり諦めていたのだが、ある日「これはテレビアニメじゃないよな? おそらく映画だろう」と気づき、映画タイトルデータベースの「オールシネマオンライン」で調べたところ、見事それらしき作品にヒットした(ちなみにオールシネマオンラインはテレビ放映作もフォローしているので、仮にテレビアニメだとしても最初っからここで調べておけばよかったのだが)。

 『ゆき』は1981年公開、虫プロダクション制作のにっかつ児童映画。キャラデザインはちばてつや、原作は斉藤隆介(『モチモチの木』などを書いた児童文学者)。監督は『青い山脈』『ひめゆりの塔』などを撮った超ベテランの今井正である。
 そこから「にっかつ映画 ゆき」などで調べていくうち、件のパチソンの原曲の歌手は「やまがたすみこ」であること、サウンドトラックがレコードで出ていること、ぼくが聴きまくっていた当の曲は「ハナの春」というタイトルであることが判明した。

 

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「ゆき 今井正」で検索すると該当の作品が出てくる。

 

 ここまでわかったのなら、原曲の「ハナの春」を聴いてみたくなるというものだが、これがなかなか難しかった。やまがたすみこのCDアルバムには「ハナの春」は収録されておらず、映画『ゆき』自体も未ソフト化。AmazonにはVHS版のページがあるが、そもそも本当に発売されていたかも怪しい。YouTubeで検索してみると見事「やまがたすみこ ハナの春」というのがヒットしたが(現在は削除済み)、それは映画と同タイトルの劇中歌「ゆき」のほうだった。うーーん…「ハナの春」はCDには未収録らしいし、映画公開当時のレコードをヤフオクかなんかで購入するしかないか。でもそのためにレコードプレイヤーなんて買えないしなあ…レコード音源をデータ化してPCに取り込む方法を探さないと。専用のキャプチャ機器が必要? ていうかそれを代行してくれるサービスもあるのか。とは言えけっこうハードル高いよなあ…。そもそも、きちんと聴ける劣化してないレコードを手に入れられるかもわかんないし…。

 

3.『ゆき』を観る

 などとウダウダしているうちにまた数年過ぎてしまったが、そんな中、映画『ゆき』が川崎市民ミュージアムの映像ホールで放映されるという情報を手に入れた。主題歌しか知らない、ソフト化もされていない幻のアニメ映画…これは見に行くしかあるまい、というわけで川崎まで赴いたのであった。この日のおれのmixi日記を抜粋してみよう。上映日は2007年11月11日。「ミュージアムの食堂で食べたキーマカレー、ベタベタしていて腹に溜まる」などのどうでもいい情報は省いて、館内のホールに入ったところから。

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 入場料600円を払って館内へ。270席のホールに客は10人くらいか。どう見ても俺がいちばん若い。他の観客らが何を求めて見に来ているのかはけっこう気になるところではあった。
 『ゆき』についての詳細はネット上を探してもほとんど見つからないため、ここで概要を書いておく。時は戦国の世、主人公は天界に住む雪じんじと雪ばんばの娘である雪んこである。戦乱にすさぶ下界を嘆いた雪じんじは、「1年以内に下界を真っ白な雪のようにキレイにしなさい」と命じて雪んこを送り出す。下界にたどり着いた雪んこは“ゆき”と名乗ってみなしごたちと仲良くなり、村を良くする為の手助けをするのでした…。
 「まんが日本昔ばなし」的なファンタジーを想像するが、実際は暴力や圧政に苦しむ農民たちが決起して野盗、侍、地主などをブチ殺していく血風戦国絵巻なのであった。主人公よりも農民たちのバトル描写のほうが断然長い。天からやってきた雪んこのゆきは、当然そうした血気盛んな農民らに向かって「もっと他の解決方法があるはずだ」と訴える…のかと思いきや「おら、あいつらが憎い。あいつらは鬼畜生だ」と煽り始め、自ら白馬に乗って悪者どもを蹴り殺す大活躍。ラスト、邪魔者をすべて始末して悠々と生活する村人たちを“神人様(シンジンサマ)”と呼ばれる神の怒りが襲う。度重なる地震に井戸水は枯れ、火山は噴火の兆候を見せる。村を救うために火山へ向かったゆきが火口に向かって高々とVサインすると、溶岩の中から体長200メートルはあろうかという神人様(まんま大映の大魔神)が出現、巨大な刀を振るって襲いかかる。対峙するゆきは最終奥義エターナルフォースブリザードを発動、神人様を粉々に砕いて見事勝利。下界に平和を取り戻したゆきは、天界で幸せに暮らしましたとさ。ラスト15分くらいの展開は未だによくわからない。
 肝心の「ハナの春」に関しては前情報どおり、劇中で流れることはなかった。しかしインストがBGMで流れていただけでも収穫だったと思える。あの曲が実際に聞けたってだけで、個人的には満足なのでありました。やまがたすみこの歌も初めて聞いたが、実にイイ声の人である。『ゆき』だけでも劇中歌がいろいろあるようなので、なんとかしてCDリリースしてもらいたいよな~。
 しかしこの映画、天下の虫プロダクション製作であるのに、ビデオすらでていないのはどういうわけであろうか。“こじき”という単語が全編に飛び交うこととか、ヒロインの目が死んでいてかなり牛山サキ(『ギャグ漫画日和』)に近いこととか、いろいろ思い当たる点はあるのだが。

  ウケ狙いで大げさに書いている感も拭えないが、だいぶアグレッシブな映画だったことは確かである。『ゆき』については、あらすじ以上の情報はネットにもほとんど無く、今となってはおれもかなりうろ覚えだが。ともかく、期待していた「ハナの春」についてはインストゥルメンタルでしか聴くことができず、すっかりあてが外れてしまった。正直な話『ゆき』がDVDだのブルーレイだので出る可能性も低そうで、こうなるとあとはやまがたすみこのCDに期待するしかなかった。

 やまがたすみこは、70年代~80年代前半を中心に活躍したシンガーソングライター。アニメ関連の仕事は『ゆき』以外では世界名作劇場の『南の虹のルーシー』くらいしかない。CMソング、テーマソングの類は非常に多いようだ。自作のデビュー曲「風に吹かれて行こう」を出した時はまだ高校生であったというから、とてつもない才媛である。2000年代に入ってからもベストアルバム系はぽつぽつとリリースされていたので、『ゆき』関連の曲もなんとか収録してほしいと願ってやまなかったのだが…。

 

4.すみこレアリティーズ

 こうなったらもう、素直に『ゆき』のレコードを買うしかないだろうと、ヤフオクに「ゆき やまがたすみこ」でアラームを登録。出品は多くはなかったものの、プレミアがついているというほどでもない。レコードの音源化を代行してくれるサービスについても調べたが、思ったほど高くはないなという感想だった。まずはレコードを落札してみるか!
 …と考えているうちに、今度は5年の日々があっという間に過ぎ去った。ぼくの不精のせいもあるし、映画を観られたことで、わりと満足してしまったのもある。本当なら「そして2013年、ついに『ゆき』の楽曲がすべて収録された待望のアルバム『すみこレアリティーズ』の発売がアナウンスされた。さっそく予約し、発売日を心待ちに…」などと書きたかったのだが、ぼくがこのアルバムの発売を知ったのは 2015 年になってからであった。なんだかすみません。

 会社でのネットサーフィン(サボリ)中、「そう言えばハナの春、あれまだ音源化されてないのかなあ。お宝音源アルバム、みたいなコンセプトで出ないかなあ」とぼんやり考え、「やまがたすみこ ゆき」でAmazon検索したらそのものズバリが発売されていたので、一瞬目を疑った。「目を疑う」ってこういうシチュで使うんだなとも思った。むろん即ポチりましたよ。

 

すみこレアリティーズ-Theme&CM Songs

すみこレアリティーズ-Theme&CM Songs

 

 

 『すみこレアリティーズ-Theme&CM Songs』には、オリジナルアルバムに未収録のレア音源が集められている。『ゆき』の関連曲は「ハナの春」「ゆき」「夢にむかって」「いつしか愛は」の全 4 曲。『南の虹のルーシー』のOP・ED・挿入歌の他、クノール・スープやユニデン化粧品のCMソング、つくば科学万博の住友館のテーマソングといったものも。
 作詞・作曲は曲ごとに別々だし、CMソング・テーマソング・アニメソングとバラバラなのだが、不思議と寄せ集めのような印象はない。透明感があり、伸びやかな彼女の歌声をじゅうぶんに堪能できる。
 「ハナの春」のオリジナル版。ようやく、初めて、このCDで聴くことができた。

 

花よ つぼみの花
春に目覚める みなしごたちよ…

 

 少年時代に聴き惚れたあのメロディ、歌詞が完全な形でそこにあった。「聴き慣れていたパチソンバージョン」にあった良さをすべて内包して、さらにその上を行くさすがの歌唱力。名曲は誰が唄っていようと名曲であること、それはそれとしてオリジナルはやはり素晴らしいこと、なおかつ、改めて今は失われた(テープが伸びきって修復不可能になってしまった)パチソンバージョンの方ももう一度聴いてみたいこと。10何年ぶりかのアニソンを流しながら、そういうことを考えておりました。