ジャッカルの日

世田谷の河童料理専門店「ジャッカル」店主の日記ブログ。

【レビュー】『モンスターズ 現代アメリカ傑作短編集』B・J・ホラーズ編

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 「モンスター」をテーマにした、海外で編まれたオリジナルアンソロジーの翻訳。帯裏に書かれた訳者あとがきには「受賞歴なし、無名の編纂者、小さな出版元、そして収録作家の半数以上が無名という、いわば『ないないづくし』の本である」とある。実際、執筆者一覧を見てもほとんど見覚えのない名前ばかりで、ネビュラ賞受賞者のケリー・リンクくらいしかわからなかった。

 表紙イラストや帯表の「怖いのに、なつかしい。」との文で察せられる通り、本書はバケモンどもが首や手足をポンポン引っこ抜いたりするような内容では無いので、そっち方面を期待してはいけない。吸血鬼、フランケンシュタインの怪物、ゾンビ、モスマンといった怪物たちも登場するが、大半は「人間」というモンスターを描いたものだ。とは言え「モンスターより怖いのは人間!」といった説教臭さは無く、身近な隣人として、友人・家族としてのモンスターを描こうといった意図が見て取れる。

 

■クリーチャー・フィーチャー(ジョン・マクナリー) ★★★
 ティミーはモンスター映画の大ファン。世の中をなんでもホラー映画チックに見てしまう彼に妹が産まれることになった。新しい命の誕生、淡い恋心を知り、少年は少し大人になる。本書のあらすじには「モンスター映画が大好きな少年の爆笑の日々を描く」などと書かれているが、大爆笑というよりは古き良き時代を描いたユーモア小説といった体裁。

■B・ホラー(ウェンデル・メイヨー) ★★★
 「怪物と襲われる美女」のコンビでパーティに出張する。B・ホラー・エンタープライズの2人組。その甲高い悲鳴を買われて美女役を任される「ぼく」と、雇い主のおっさん「B」の物語。本アンソロジーには怪物を着ぐるみで演じる話が3作もあるのでちょい埋もれ気味だが、細やかな心理描写が読ませる。

■ゴリラ・ガール(ボニー・ジョー・キャンベル) ★★★★★
 さて、ようやく“モンスター”が登場してくれた。常に怒りと破壊の感情を秘めたゴリラ・ガールの半生記。子供のころから男を殴り、テントウムシを食べ、親に噛みつき、自分にも噛みつくゴリラ的な凶暴さを秘めた少女。成長するにしたがい美しく、強く(性欲も)なった彼女が最終的に行きついた場所は? 筆致もパワフルでエネルギッシュな快作。

■いちばん大切な美徳(ケヴィン・ウィルソン) ★★★★
 自ら吸血鬼になることを選んだ娘に対する両親の心情が描かれる。心締め付けられる短篇。

■彼女が東京を救う(ブライアン・ボールディ) ★★
 戦うたびに親密になっていった、ゴジラ(女性)とキング・コング(男性)が別れ話をするというショートコント。なんなんだこれは。

■わたしたちのなかに (エイミー・ベンダー) ★★★★
 ゾンビにまつわるショートエピソード7編の連作。超自然とは関係ない最後の実話エピソードが実にやるせない話で、これが書きたかっただけちゃうんかという気もする。

■受け継がれたもの(ジェディディア・ベリー) ★★★★
 グレッグの家の地下室には、見たこともない「獣」が鎖でつながれていた。死んだ父親の形見でもある獣は意外に賢く、人にも懐いていたのだが…。エピソード自体は「飼い犬」でも同じ展開になりそうだが、得体のしれない獣の存在感が不安を煽る。

■瓶詰め仔猫(オースティン・バン) ★★★
 交通事故で顔に大怪我を負い「怪物」と化した少年。事故を起こした相手はすでに死んでいたが、少年はその妹を対象に行動を起こす。人はどこから怪物になるのか、それは誰のせいなのだろうかという重い問いかけ。

■モンスター(ケリー・リンク) ★★★★★
 キャンプにやってきた子供たちの間でささやかれる、モンスターの噂。大きな黒い翼で空を飛び、鋭い牙が生え、人に噛みつくという。キャンプに乗り気でないジェームズにとっては、
 モンスターよりもいじめっ子たちの方が大きな問題だった。そいつが本当に来るまでは…。悪ガキどものわくわく冒険アドベンチャーが、鮮血のラストシーンを迎える。

■泥人間(ベンジャミン・パーシー) ★★★
 几帳面な男、トーマスが庭仕事中にケガをして落とした爪から、泥人間(マッドマン)が生まれる。見た目に似合わず働き者の泥人間は、トーマスの妻や息子にも受け入れられ、家族の一員のように迎え入れられるのだが…。わかりやすくも皮肉なオチが決まっている1本。

■ダニエル(アリッサ・ナッティング) ★★★
 自分のことを吸血鬼だと思い込んでいる少年・ダニエル。牙をとがらせ、コウモリを飼いたがり、犬の血を吸い、鳥の生首にかぶりつき…と、奇行はどんどんエスカレートする。そんな彼を疎んじる母と、関心を持たない父。「いちばん大切な美徳」と同じく吸血鬼とその家族の物語だが、こちらで描かれる家族像は歪な形を取っている。

■ゾンビ日記(ジェイク・スウェアリンジェン) ★★★
 ゾンビ・アポカリプスに巻き込まれた派遣社員の手記。わずか6ページにゾンビ映画の典型的、かつ一捻り加えた展開が詰め込まれており意外な読み応え。

■フランケンシュタイン、ミイラに会う(マイク・シズニージュウスキー) ★★★

 古代エジプト研究者の彼女と、ヒモ同然の暮らしをしている主人公。彼女が勤める博物館の博士から「子供たちのレクリエーションのためにフランケンシュタインの怪物に扮装してくれ」と頼まれるのだが…。とことんダメ男な主人公が成長するちょっといい話…かと思いきや、ラストの破滅的なドタバタ。呆気にとられる怪作。

■森の中の女の子たち(ケイト・バーンハイマー) ★★
「ヘンゼルとグレーテル」を下敷きにした現代寓話。これはやはり絵本で読みたいお話かもしれない。

■わたしたちがいるべき場所(ローラ・ヴァーデンバーグ) ★★
 女優志望だがなかなか芽が出ず、ビッグフットの着ぐるみを来て客を驚かす「ビックフット・レクリエーション公園」でバイト中の主人公と、難病をかかえた恋人との切ない恋。美しい文章だとは思うが、ビッグフットの設定をうまく扱いきれておらず、別にモンスター関係ないじゃんという気がしないでもない。

■モスマン(ジェレミー・ティンダー) ★★★★
 本アンソロジー唯一のコミックで、短いながらも鮮烈なラスト1コマが印象的。。音楽好きのクリーチャー、モスマンがラジオを手に入れた。彼が愛したのハード・ロックは、いつしかラジオから流れなくなった…。

 

 以上、いずれもノスタルジックで精緻な心情描写が印象的な17編。アンソロジーにありがちな「作風がバラバラ過ぎて1作読み終えるのに時間がかかる」みたいなこともなく、すらすらと読める。ただ、個人的にはやはり暴力と血の臭いにまみれた「モンスター」「ゴリラ・ガール」の2編が飛びぬけて好み。ブラッドベリ的な郷愁のみに留まっておらず、「これがバケモンじゃい!」という気概が感じられる。「フランケンシュタイン、ミイラに会う」のデタラメなラスト、「泥人間」の奇妙な侵略者ぶりもなかなか忘れがたい。