ジャッカルの日

世田谷の河童料理専門店「ジャッカル」店主の日記ブログ。

そして、誰も居なくなる/『ヘレディタリー 継承』

 うそだらけの既婚男子日記でふぁぼを稼ぎ続けたジャッカル佐崎さん、その自己顕示欲のキモさが叩かれたのも今は昔。うその人情ほのぼのツイートを連発するかたわら、批判的意見はいっさい無視して架空の妻・親族・隣人たちと織り成すやさしい世界を呟き続けた。結果、一定のファンも付きオフパコに困らない地位を確立、そのネットリテラシーは高く評価されSPAにインタビューを申し込まれるほど。そんなジャッカル佐崎さんのインターネット必勝術が克明に記された小冊子、今なら300円ポッキリですゾ! などと絶叫しながら小汚い男がおれの背広の裾をつかんできたので、キッと睨んで拳を振り上げる真似をすると「ピャア」と小さく声をあげて離れ、そのまま人混みに紛れていった。

 


 

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 『ヘレディタリー 継承』観てきました。巷では「史上もっとも怖いホラー映画!」「ここ最近で最恐!」などと言われており、ハイハイいつものやつね、と思いながら観たのだが、本当にすみませんでした。ここ最近どころか、おれが今まで観たあらゆるホラー映画の中でもぶっちぎりで怖かった。

 オールタイムベスト級ホラーである。

 

 比較的最近観たいろいろなホラー…例えば『IT/それが見えたら、終わり』も『哭声/コクソン』も『グリーン・インフェルノ』も、出来が良くてしっかり怖い作品であった。ただ、『ヘレディタリー』には、これらの作品に盛り込まれていた「エンターテインメント性」が無い。ひたすら観客の神経と精神を削り、怖がらせて恐ろしがらせて厭な気分にさせることに全てをつぎ込んでいる。…本当にもう、カンベンしてくれよ!

 

 祖母の死をきっかけに、絆に亀裂が入り始めるとある一家。いつしか彼らの周囲には奇妙な現象が起きる…。あらすじだけを抜き出してしまえば、『ヘレディタリー』の物語は非常に単純だし、コックリさんじみた降霊術をはじめ、登場するオカルト要素や怪異も目新しくはない。それでいて、抜群に怖い。「取り返しのつかないあやまち」を犯した時の、自分の周りのすべての時間が止まってしまったような感覚。見慣れた家が、部屋が、異界へと一瞬にして移り変わる浮遊感。その描き方の上手さが半端ではない。物語の後半で、一家の異変の元凶と思われる存在が明らかになる。だいたいのホラーだと、こういうタネ明かしがされた瞬間に恐怖感そのものがチープになるというか、正体がわかったことによる安心感から以後は多少はラクな気持ちで観られるようになるのだが、本作の場合はソレが一切ない。「けっきょく○○かよ~」と頭の片隅では思うものの、○○の恐ろしさは減じることが無い。絶望に次ぐ絶望、凶悪なる驚愕の末に迎えるラストには呆然とするしかない。

 

 なんかもう…スゲーものを観てしまったという思い。おれの中の「こんな映画が存在していいのか」級の判断は『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』が基準になっているが、ほんとホラー映画の『デス・ロード』枠は本作ですわ…。映像、演技、音楽、効果音、人を怖がらせることに特化した暴力。「本作の途中にホンモノの幽霊が映っていた!!??」みたいにも言われていたが、幽霊のほうが数段マシですわ。

 劇場で購入したパンフレットはネタバレ考察がいろいろ載っていて興味深く読める。本作は終盤の展開がなかなか複雑で、伏線も多数張られているのでストーリーの考察しがいがありそうだが、怖すぎてそこまで頭が回らないと思う。ちなみに監督はこれが長編デビュー作。監督自身に起きた「家族の不幸」がきっかけになっており、キャラクター造形には7年の年月をかけたという。…確かに、そこまでの「なんか」が凝り固まっていないとまず撮れない奇跡のような悪夢だよなと思わせる。

 

 ホンマ、劇場で観てください。人生歪むから。